緑豆『宋開宝』
【名の解釈】[時珍日]緑豆は緑色から名付けられた。本来は「茶」であって、「緑」ではなかった。
【各種の解釈】
[志日]緑豆は丸くて小さいものが上等である。粉で作ったお菓子は体によい。
大きいものは植豆と呼ばれ、笛、種が似ている。
気(上につきあげた気やとどおこった気)を下し、霍乱(夏の食中毒:吐き下し)を治す。
[瑞日]種類は官緑(浅い緑)と油緑(濃い緑)に分けられ、薬効は同様である。
[時珍日]緑豆は広く栽培されている。3月から4月までの間に種を植え、苗の高さは1尺ばかりで、 葉は小さく、毛が生える。
秋になると、小さな花が咲き、赤豆の莢と同じである。
大粒で色鮮やかのものは官緑といい、皮が薄くて小粒で色が濃いものを油緑という。
皮が厚くて早植のものは摘緑といい、頻繁に取られる。
また、遅植のものを抜緑といい、一回しか取らない。北方の人は様々に広く用いている。
例えば、豆粥、豆飯、豆酒を作ったり、粉にしてお菓子を作ったり、粉皮(緑豆のでん粉を水に 溶かし煮沸して薄く伸ばした清涼食品)、春雨を作ったり、発芽させてモヤシにしたりする。
食用のほかに牛馬の飼料にもよく使用される。世を救うよい穀物である。
【薬味、薬性】
甘、寒、無毒
[臓器日]皮ごとに用いたほうが望ましい
。
皮を取って食用すると壅気を起こす。なぜならば、皮の薬性は寒で、肉は平であるからである。
しかし、これに反して、榧子の殻は人に害を与えるのである。
また、鯉とともに塩漬けにして、久しく食用すると胆黄を起こさせ消渇病になる。
【薬効】
煮食すると、腫を消し、気を下し、解熱と解毒の効がある。
すりつぶして出した汁を服すれば、丹毒、寒熱、風疹、薬石発動、熱気奔豚(気が下腹から のどの方につきあげて、
今にも死にそうな発作をおこすかと思うと、また、けろっとして良くなる奔豚の病)を治す。
[開宝]感熱熱中(熱中:異常な熱気が体内にこもった熱気の病)、泄痢と腸 (下痢の病)を 止め、小便脹満を利す。
[思 ]胃腸を渋す。緑豆で作った枕を使用すると、目を明らかにし、頭風(痛んだり目まいが したりする病気)、頭痛を治し、吐逆(激しい嘔吐)を止める。
[日華]元気を補い、五臓(肝・心・脾・肺・賢)を調和し、気を安らかにし、十二経脈(手と足の、太陽・陽明・少陽・太陰・少陰・厥陰)を通じ、風を退け、肌に潤いなどの効があ
るので普段から食用したほうがよい。
煮出した汁は消渇(いくら水を飲んでも飲み足らず、むやみにのどが渇く病)を止めるにも有効である。
[孟 ]全ての薬草、牛馬(牛馬の毒:病気の牛肉、馬肉を食用して、中毒する)、金石の毒(金属の毒、鉱石の毒)を解す。
[寧原]痘毒を治し、腫を消す。
【発明】
[時珍日]緑豆は肉の薬性が平で、皮が寒である。
すりつぶして服用すると金石三酸化二ひ素、草木等の毒を解す。
夷堅志によると、ある人はは附子酒を飲み過ぎて、頭が斗のようにはれ上がって、唇からも出血した。
急いで緑豆、黒豆を数合ずつかみ砕いたり、煎用したりして解したということである。
【処方例】
[扁鵲三豆飲]痘瘡を治す。
前似て、これを飲めば解毒を疎通し、大量に出るのも抑えられる。
緑豆、赤小豆、黒大豆を1升、甘草節2兩を8リットルの水でよく煮る。
それを、各々の判断量で豆を食べたり、汁を飲んだりすれば、7日間で止まる。
もう一つはこの3種類(緑豆・赤豆・黒豆)に大豆、白大豆を加えて「五豆飲」と呼ぶ
[痘後の 毒]発病時に三豆膏(すりつぶした緑豆、赤小豆、黒大豆を同量に酢で調合したもの)を時々塗ると直ちに治る。
『医学正伝』による。
[防痘入眼](痘瘡の目入りの防止)緑豆を7粒を、子供に井戸へ投げさせ、7回見せて戻す。
[小児丹毒]緑豆を5銭、大黄2銭を粉末にして、はちみつの入った生の薄荷汁で調合して塗布すると効果的である。『全幼心 』による。
[赤痢不止](赤痢止まらぬ)大麻子を水ですり砕き、濾過した汁に緑豆を入れて煮て服すると極めて効く。汁を飲用してもよい。『必効方』による。
[老人淋痛](小便が滴るように出にくく、また、痛んだりする淋瀝病の痛み)青豆2升、橘皮を2兩、
緑豆と一緒に煮て、麻子汁を1升混合して空腹時に少しずつ服用すれば、効果がある。
『養老書』による。
[消渇飲水](いくら水を飲んでも飲み足らず、むやみにのどが渇く病)緑豆で汁を煮たり、粥を作ったりして食用する。『普済方』による。
[心気疼痛](心臓あるいは心臓のある部位が痛む心痛の病)緑豆を21粒、胡椒を14粒、すりくだして白湯で調服。すると痛みを速やかに解消する。
[多食易飢](たくさん食べたのにすぐお腹がすくという病気)緑豆、黄麦、もち米を1升ずつじっくり炒めてひいて粉末にする。 日に白湯で一杯服用すると三、五日で効き目が出る。
[十種水気](むくみの病)緑豆を2合半、大きい附子を一個、皮と芯を取り、2切れに切って、3カップの水と一緒に煮て、空腹時に横になって豆を食べる。
翌日、2切れの附子を4切れにして、緑豆を2合半、前と同じ要領で煮て食べる。
三日目はまた一日目と同じように煮て食べる。四日目は二日目と同じように、煮て食べる。
そうすると、水気は小便から体外に排出され、水腫が自然に消えてしまう。まだ、むくみが残っている場合は再び服用する。
服用中は生物、冷たいもの、毒物、塩、酒を60日間断つ事。『朱氏集験方』による。
緑豆粉
【薬味、薬性】
甘(薬味)、涼、平、無毒。(薬性)
[原日]脾胃の弱い者は、緑豆粉の粘り気の多いものを大量に食用してはいけない。
[瑞日]杏仁と混合してはいけない。
なぜならば、混ぜると粘り気がなくなってボロボロになり麺条になりにくいからである。
【効能】諸熱を解し、気を益し、酒毒、食毒を解す。頭の 疸瘡腫を治す。火傷にも効果的である。
[呉瑞]痘瘡でなかなかかさぶたができない人には緑豆粉を患部にふりかけてもよい。
[寧原]汲んだばかりの水で服用すると霍乱による転筋(こむらがえり)を治し、また各種の薬物中毒による死亡、しかも体がまだ暖かい者に対しては解毒薬としても用いられる。
[時珍]菰(沼や池に生える菖蒲に似た草)の菌、三酸化二ひ素の毒を解す。
[汪 ]【発明】[時珍]緑豆は厥陰、陽明を通じる。その薬性が平であるため、消腫治痘の効能は赤豆と同じであるが、
解熱、解毒の力は赤豆より優れている。そして、気を益し、胃腸を渋し、経脈を通じる。
長時間にわたって飲んでいても人に害を与える心配はない。
但し、涼粉(緑豆のでん粉で作ったところてんのようなもの)、豆酒のようなものは冷たすぎたり、
暖かすぎたりするので病気を起こさせやすい。
これは人間のせいで、緑豆そのもののせいではない。緑豆粉は緑色で粘り気のあるものが良質なものである。
内托護心散は外科においても癰疽の治療の薬として応用される。その効能は丹渓朱氏が論じたことがある。
[震亨]外科の肝心な薬といえば、内托散である。発病の一日目から三日目かけて、10何回服用すれば毒素の内臓への侵入を免れる。
緑豆は丹毒を退治し、石毒を解す。薬味は甘で、陽明に入り、薬性は寒で補う作用がある。
乳香で悪腫を消し、少陰に入り、薬性が温で気を通じる。甘草は薬性が平で五金、八石、百薬の毒を解すのに効がある。
この薬方は丹石による発疽者のために作ったのであろう。
お年寄り、重病者、体の弱い人にとっては、緑豆は滋養強壮の作用があるけれども、それに勝てないこともある。
例えば、五香連翹湯も必ずしも使用するものではない。
その前に、まず気を強くし、胃の働きをよくし、体の根本的なものを強くするうえで行経活血を行うことが大切である。
毒ガスを外に出すのは内托の本来の意味である。もし、早めに使用すれば毒を体内で消すことができる。
【処方例】新十二。[護心散]内托散又は乳香万全散とも呼ぶ。癰疽の場合は一日から三日の間に10何回服用すると変症を免れ、
また毒ガスを外へ出せる。少し遅れると、毒ガスが内攻し、だんだん嘔吐を催し、あるいは鼻に瘡菌ができる。
こうなると服用しないと危ない。また、服用して四、五日の後から、間を置いて服してもよい。
緑豆粉を1兩、乳香を半兩兩、灯心(藺草)とともにひいてよく混ぜて、甘草の煎湯で1銭を調合して時々飲用する。
もし毒が攻心して、嘔吐の症状が起きたら、これを飲んでもよい。
なぜならば、緑豆は解毒、気を下げ、消腫、解毒作用があり、乳香は各種の癰疽腫毒を消す作用があるからである。
1兩までに服用すると香りは瘡の穴に達するから、妙薬といえる。『李 立外科方』による。
[瘡気嘔吐]緑豆粉を3銭、千臙脂を半銭、よくすって、及んだばかりの水で調合して、飲用すると速やかに止まる。『普済』による。
[霍乱吐利]緑豆粉、白糖を2兩ずつ、及んだばかりの水で調合して飲めば直ちに治る。
『生生編』による。
[焼酌毒を解す]緑豆粉で粉皮(緑豆のでん粉を水に溶かし沸騰して薄くのばした清涼食品)を作って、それを食べると解す。
[鴆酒毒を解す](鴆:毒のある鳥の名。鴆酒:鴆の羽を浸した毒酒)緑豆粉を3合、水で調服する。
[砒石毒を解す](砒石:砒素・硫黄・鉄からなる鉱石。強い毒を持つ。)緑豆粉、寒水石等分を蘭根汁で3、5銭調服する。『衛生易簡』による。
[諸薬毒を解す]もう死亡したけれども、尚、体が暖かいものに対し、緑豆粉を水で調服する。
『衛生易簡』による
。
[打撲損傷]緑豆粉を新しい鍋で黒ぽくなるまでに炒めて、汲んだばかりの井戸水で調合し、杉の皮で患部に固定する。
よく効く。これは汀人の陳氏夢伝からの処方である。『澹寮方』による。
[棒瘡疼痛](棒瘡:棒で殴られてできた傷)緑豆粉を炒めて、すって卵の白身で混ぜて塗布する。
極めて効く。『生生編』による
。
[外堅生瘡](外堅:漢方医学でこう丸を指す。)緑豆粉、ミミズの糞を等分、すって患部に塗る。
[暑月汗疹]緑豆粉を2兩、滑石を1兩、よく混ぜてふりかける。もう一つは蛤粉を1兩加える。
『簡易方』による。
[一切腫毒]発病時に、緑豆粉を焦がし、粉末にした猪牙皀を1兩、米酢で調合し、患部に塗布する。
患部の肌が傷ついている場合は油で調合する。『邵真人経験方』による。
豆衣
【薬味、薬性】甘、寒、無毒。
【効能】熱毒を解し、目の翳を取り去る。[時珍]
【処方例】[通神散]痘瘡による目の翳を治す。緑豆衣、白菊花、谷精草(星草)を粉にし、1銭を用いるたびに干し柿を一つ、粟米の研ぎ汁を1カップ、汁がなくなるまで煮詰める。
一日3回この柿を食べる。症状の軽い患者に対して、三、五日に効き目が現れる。重い患者には半月に効果が出る。『直指方』による。
豆莢
【効能】長年にわたって治せない赤痢に用いる。豆莢を蒸して自由に食用してよい。
[時珍]『普済』による。
豆花
【効能】酒毒を解す。[時珍]
豆芽
【薬味、薬性】甘、平、無毒。
【効能】酒毒、熱毒を解し、三焦を利す。[時珍]
(三焦:上焦、中焦、下焦に分けられる。漢方医学で舌の後部から胸腔に沿って、腹腔までの部分を指す。)
上焦:漢方医学で胃の上口から、舌の後部を指す。心臓、肺臓、食管等を含み、呼吸、血液の循環等の働きを果たす。
中焦:漢方医学で胃の上口から下口までの部分を指す。消化の働きを果たす。
下焦:漢方医学で胃の下口から盆腔の部分を指す。堅臓、小腸、大腸、膀胱等の臓器を含み吸収、排泄の働きを果たす。
【発明】[時珍日]一般的には豆が発芽する時は生臭く耐え難い臭いがするが、この緑豆の芽だけが白く誠に美しい。
古人はこれを知らなかったのである。豆芽の性質は、温熱、鬱気を受けると、よく発瘡動機という性質であり、緑豆のそれとやや違う。
豆葉
【効能】絞り汁に酢を少々加えて温服すれば、霍乱吐下に適用する。『開宝』による。
緑豆粥
『普済方』
【材料】
緑豆30g、米15g。
【効能】
熱毒を解し、煩渇を止め、水腫を消す。
【用途】
厚熱煩渇、瘡毒水腫、風痰、気逆、小便不利に適応する。
また、暑あたりによる発熱、煩渇の予防にも適応する。
【作り方】
緑豆を煮てから米を入れて粥にする。又は緑豆を半日に浸し、米と一緒に煮る。
【使用上の注意】
夏の清涼飲料としてもよいし、朝晩の食事としてもよいが、但し、脾胃虚寒泄瀉及び身体腸虚多寒者は使用禁止。
【附記】
緑豆は食物として滋養作用を有する。その性味は甘寒であり、暑熱を解し、煩渇を止める効がある。
緑豆で作った粥は人々に愛用されている。
特に、夏に緑豆湯(少量の緑豆、たくさんの水で煮たおもゆ)は暑気払いの飲み物として人々が好んで利用している。
滋養食品だけでなく、清熱解毒の漢方薬でもある。
臨床上、各種の中毒に用いるほかに、また、暑熱煩渇、熱毒瘡疽、瀉痢、小便不利、風疹等に対する補助の食事療法にも応用されている。
『随憩居飲食譜』には「緑豆の性味は甘涼であり、煮食すると胆を清め、胃を養い、暑を解し、渇を止め、肌を潤い、水腫を消し、小便、瀉痢を利す。」とある。
『普済方』には「消渇飲水(消渇:いくら水を飲んでものみたらずに、むやみにのどが渇く病。
(今は糖尿病と呼ぶ)の場合は、緑豆湯、緑豆粥を食用する。」と記載されている。
『本草網目』には「緑豆粥は熱毒を解し、煩渇を止める」とある。
よって、緑豆粥は暑気払いの理想的な食品として今日も愛用されている。
暑い環境下で仕事に携わる人達、中年の方、年長の方に対しては、常に緑豆粥、緑豆湯を食用するのは健康によいことである。
-緑豆漢方-本草網目より